孤独バンザイ度:★★★★☆
2017年6月ごろ読了
「孤独であること」は悪いことではなく、むしろ貴重かつ稀少な価値のある良いことである
本書の内容を一言でいい表すならば、こうなるだろうか。
天才小説家と言われる森博嗣氏による人生論である。
僕は実は小説よりもこうした論文風のものや、エッセイの方が森氏の作品としては面白いと思っている。
(とは言っても森氏の小説作品は「全てがFになる」しか読んでいないので、そういい切るのは無謀かもしれない)
それはさておき、この本の中で繰り返し主張されるのは、
孤独が悪いことだというのは、植え付けられた間違った認識である。
孤独には人が生きていく上で、そして何かをなそうとする上で、大きな価値がある。
ということだ。
人生にはさほどの金も仲間も必要ない
と森氏は言い切る。
それはもう十分すぎるほどの金を持っているから言えることだろうという反論は想定内だ。
森氏は作家としてデビューする前から、収入の1割を趣味(主に工作)に使ってきたという。それは貧乏若手研究者だった時代から、億単位の金を稼ぎ終わり今もまだ相当額の印税を毎年受け取っている今も変わらないらしい。
収入増に寄ってやりたいことへの金銭面での制約が減っただけだと。
金のない時代には、金のないなりに創意工夫してやりたいことをやってきた。むしろそれが自由というものだ。
と森氏は主張する。
ただし現実的には、彼自身がどう思っていようが、天才作家である。
デビュー作からして「売るために書いた」という。
その後も冷静にどのようなものが売れるのか、それを念頭に置いて書いてきたという。
別書では「ビジネスと割り切って小説を書いてきた」と言い切る。
ついでに書けば、その書き方が天才としかいいようがない。
まずタイトルをずっと考えるという。
僕が言うまでもなく、氏の小説のタイトルは実に印象深く、素晴らしい。
それが考えつくと、もはや創作は終わっているらしい。
あとは脳内に浮かぶ物語の情景を、なんとか書き留めようと手を動かすだけだという。
(「小説家という職業」より)
そして書き上がってしまえばほとんど手をいれることなく、出版される。
しかもそうして書いたことは、どんな話だったのかも、伏線も、固有名詞も含めて全部覚えている。
だからシリーズ物の続きを書くときにも、前作を参照したりすることはないそうだ。
長々と書いてしまったが、そんな天才である森氏の言うことだから、ちょっと我々凡人には当てはまらないのでは、という気にもなってくる。
だがしかし、これらの創作作業に必要だったのは、何よりも孤独だった。
もし一人になる時間がなければ、こうした作品群はけして生まれなかった。
何かを作り出そうとする人には、孤独こそが必要なのだ。
と森氏は強く主張している。
考えるためには孤独が必要不可欠
それがもし、皆力を合わせて一緒に取り組むべき事柄だとしても、必ず一人で考える時間が必要なはずだ。
寂しいとは、静かで落ち着いた状態であり、そして楽しさの前段階でもある。
楽しさはやがて過ぎ去りまた寂しさがくる。
これらは繰り返される波動、というものらしい。
確かに、1年365日ひたすらずっと寂しい人も、同様にずっと賑やかな人もそうそういないだろう。
割合がそれぞれ違うだけだ。
だが世の中がだんだんと感情過敏になってきているが問題だと森氏は言う。
孤独を悪と決めつけ、または自ら孤独に身を置く者を、異物として捉える世の中が異常なのであると。
意に反して孤独となり、他人の手を必要とする者(主に生活力のない子供や老人など)にならば大いに手を差し伸べるべきである。
だがそうでないものには大きなお世話だ、とまで森氏はいい切っている。
現代人は皆つながりたくて必死だ。
そうさせているのは、つながりを売り物とする商売(マスコミ、広告、宗教?)に載せられているのだ。不安こそビジネスのタネ、だからだ。
孤独こそは生きるために必要な状態であり、それらに悩むこともまた人間の価値だ
だが孤独に悩んでいる人は実際に多いだろう。
そんな人々に森氏は呼びかける。必要以上に孤独に苦しめられるな、と。
そして、どうしても孤独が苦痛だと言うならば、協調へ移行せよ。
つまり周囲の人に合わせろ、と。それは簡単なことだ。
だがしかし、一度協調路線へ移行したならば、逆に孤独に戻るのは難しいことになるという。
……いや言うほど協調路線も簡単じゃないですよね……
おっと挫けそうになってきた。気を取りなおさねば。
やはり結論は繰り返しになるがこうだ。
孤独の価値は稀少かつ貴重なンだッ!
僕もこうした本を読み、こんな駄文を書き散らせるのは孤独のおかげなのだ。
だがその貴重な時間はあっという間に過ぎ去っていく。
家族は夜にはみんな帰ってくるし、平日は(下手すると週末も)朝から仕事だ。
家族も仕事もあることへ感謝の気持ちはもちろん持っている。
でもできればもう少し孤独な時間を増やしたい。
でもどうやらそれは、とても贅沢な悩みというものらしい。
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