【一般書籍レビュー】「武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト」 山口 周
年に1〜2回、「あ、なんかすげえ、哲学とか思想とか勉強してえ!」的な謎の衝動に襲われて、その手の電子書籍を手にとることがあります。そして当然のごとく挫折と言うかほぼ途中で読むのをやめてしまいます。それも哲学の偉い人が書いたオリジナルの哲学書を読むのを挫折したとかでなく、よくある哲学入門書的なものを、です。だって途中で飽きるんだもん。なんでやねん。
とか思ったりしていたのですが、その「なんでやねん!」に答えてくれたのがこの本。
その理由を一言で言えば「哲学なんて実生活に役に立たない」と脳が判断してしまうから。
(ついでにもうひとつ「大抵の入門書の最初にプラトンとかその辺の大昔のおっさんの古すぎる話がでてくるから」という理由も大きい模様)
それに対して
いやいや全ての科学の根底には哲学があるのだから大きな意味では役に立っている!!的な
ありきたりな反論も反射的に浮かぶのですが、僕の場合それもまたが最後まで読み通せない原因の一つとしての妙な思い込みとなっているようなのですね。そもそもそんなこと僕、信じてないし。
純粋に哲学という学問分野に興味があるならば実生活に役に立たなくてもなんともないわけですが、たまにカッコつけに読んでみっか程度の意識だと、最後まで持たないということなのでしょう。
ちなみに僕の場合だと「宇宙」に関するものだと大抵の本は(あまりにも専門的でない限り)最後までウキウキ読めちゃいますね。数学的なところはほぼ理解できないし、当然生活の役になんかまったく立ちませんけどね。
しかも作者はこんな僕みたいな「ファッション哲学野郎」に対して
哲学を学ぶと「役に立つ」とか「カッコいい」とか「賢くなる」ということではない、哲学を学ばずに社会的な立場だけを得た人、そのような人は「文明にとっての脅威」、つまり「危険な存在」になってしまうというのがハッチンスの指摘です。
などといきなり冷水をぶっかけてきたりします。やべー、俺は危険な存在だったのか。あ、でも高い立場にいるわけじゃないからセーフ(笑)
それはさておき作者は「哲学の生活や仕事に役に立つところだけ学んでOK。いやむしろそうしろ」というテーマでこの本を書きました。
「役に立つ」の部分を積極的に肯定する立場です。
なるほど確かにそのとおり。現代社会に生きるならば、ある程度の哲学の教養というか知識はもっていたほうがいい(そんなもん要らん!派の人もたくさんいるでしょうけど)。
そして哲学の「役に立つところ」を実際に抜粋して紹介してくれています。
以下、その中から僕が「なるほど!!」と思ったところをご紹介。
まずは総論的に「社会人が哲学を学ぶ意味」
【ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意味①】 状況を正確に洞察できるようになる
哲学を学ぶことの最大の効用は、「いま、目の前で何が起きているのか」を深く洞察するためのヒントを数多く手に入れられること
【ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意味②】 批判的思考のツボを抑えられるようになる
難しいのは「新しい考え方・動き方」を「始める」ことではなく、「古い考え方・動き方」を批判的に捉えて、これを「終わらせる」ことなんです。
【ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意味③】 アジェンダを定める
どうすれば「課題設定能力」を高めることができるのか? 鍵は「教養」ということになります。なぜかというと、目の前の慣れ親しんだ現実から「課題」を汲み取るためには、「常識を相対化する」ことが不可欠だからです。
【ビジネスパーソンが哲学を学ぶ意味④】 (省略)
③に関しては、アジェンダとか言われるとなぜかちょっとイメージ悪い(笑)気がしますが、
「大きな仕事をなしている人は大きな課題を解決した人であり、その大きな課題を見つけられた人である」
という前提から、常識破りとなるその大きな課題を見つけ出すのに哲学的な教養が役に立つ、ということのようです。
以下、各論として
ロゴス・エトス・パトス ──論理だけでは人は動かない
人の行動を本当の意味で変えさせようと思うのであれば、「説得よりは納得、納得よりは共感」が求められます。
「こういう理由でこういう必要があるからやれ!」
とか言われるよりは、
「こうするといいことがあるし、みんな助かるし俺もなんか助かるし、まあとにかくいいことがあるんだからやりましょうよ、いやマヂでいいことあるよー(アルヨー、アルヨー……」
なんて耳元で囁いて共感を得たほうがいいってことですね。ってこれじゃあ洗脳っぽいけど。
予定説 ──努力すれば報われる、などと神様は言っていない
例えば学習心理学の世界ではすでに「予告された報酬」が動機付けを減退させることが明らかになっている、という事実を知れば、私たちの「動機」というのが、シンプルな「努力→報酬」という因果関係によっては駆動されていないらしいということが示唆されます。
「自分の努力に対して正確に相関する報酬を受け取れる。そういうわかりやすいシステムであれば、人間はよく働く。そう思っている人がすごく多い。雇用問題の本を読むとだいたいそう書いてある。でも僕は、それは違うと思う。労働と報酬が正確に数値的に相関したら、人間は働きませんよ。何の驚きも何の喜びもないですもん。」 内田樹・中沢新一『日本の文脈』
さらに関連して、
報酬 ──人は、不確実なものにほどハマりやすい
行為は、その行為による報酬が必ず与えられるとわかっている時よりも、不確実に与えられる時の方がより効果的に強化される、ということ
最近の研究では、ドーパミンの効果は人に快楽を感じさせることよりも、何かを求めたり、欲したり、探させたりすることであることがわかってきています。ドーパミンが駆動するのは覚醒、意欲、目標志向行動など
これに関しては正直、意外でした。単純に人はお金が絡めばやる気出ると思ってましたから。
でも自分自身はボーナスをちらつかせながらハッパかけてくる上司などには反発心と言うよりもかえってやる気を削がれる気が確かにしていたので、これは腑に落ちる話でした。
タブラ・ラサ ──「生まれつき」などない、経験次第で人はどのようにでもなる
寿命が100年になろうかという時代においては、「学び直し」もまた重要な論点になってきます。
こちらに関連して、
アンガージュマン ──人生を「芸術作品」のように創造せよ
実存主義というのは、要するに「私はどのように生きるべきか?」という「Howの問い」を重視する立場だ、ということ
では、その「問い」に対して、サルトルはどのように答えるか。それが「アンガージュマンせよ」ということです。
そしてそのアンガージュマンとは、
〔関与・拘束の意〕
フランス実存主義の用語。状況に自らかかわることにより,歴史を意味づける自由な主体として生きること。サルトル・カミュなどでは,さらに政治的・社会的参加,態度決定の意味をもつ。こちらの出典は Weblio辞書 より
・・・結局「アンガージュマン」がいったいどういう「マン」なのかよくわかりませんでしたが、ようするに、
「人生、いくつになっても常に勉強したりやりなおしたり新しいことに挑戦したりしていきまっしょい」
ということかな、と浅く理解してみました。
でもこれは割とガチのマジで僕の最近のテーマだったりもします。
ということで哲学をテーマにした本では久々に最後まで読み通せた本でした。
哲学の実用性を知りたい方にはおすすめです。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません